社会福祉法人 富士育英福祉会 岩松保育園

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園長のひとりごと#9 読書のススメ

2023年09月23日

 「雨にも負けず 風にも負けず 雪にも夏の暑さにも負けぬ 丈夫なからだを持ち 欲は無く 決して瞋からず 何時も静かに笑っている」

 これは、国民的作家である宮沢賢治の「雨ニモマケズ」の書き出し、誰もが一度は聞いたことのある詩だと思います。あれは、確か小学校4年生のことだったでしょうか。父から旅行のお土産で「雨ニモマケズ」の全文が書かれたポストカードを貰いました。ポストカードを手渡しながら「こんな人間になるべきなんだよなぁ」と熱弁されたことを覚えていますが、当時10歳だった私は何度読んでもこの詩の意味を理解できませんでした。デザインが気に入っていたので、貰ってから何年かは勉強机の棚に保管していましたが、いつの間にかどこかに消えて、今では消息不明です。
時は流れ、大人になった私はポストカードの存在などすっかり忘れて仕事に邁進する日々を送っていました。この仕事に就いて以来、子どもたちがどうすれば成長、発達していくのかを常に考え、そのための環境を整えてきました。自分でもおこがましいとは思うのですが、人としての道を子どもに説いたりすることもあります。そんな日々を送れば送るほど、自分自身が「どんな人であるべきなのか」「どんな人生が幸せなのか」と考えることが増えていきました。毎日、毎日、何年も考えていると、おぼろげながらもなんとなく(こんな人であるべきなんだろうなあ)と、人としての理想像が見えてきます。そんなある日、家のソファでくつろいでいた私の耳にテレビから聞き覚えのあるフレーズが聞こえてきました。

 

「雨にも負けず 風にも負けず・・・」

 

 ドラマでよく見る女優さんが宮沢賢治の「雨ニモマケズ」を朗読していました。その瞬間、自然とそのCMに目が釘付けになりました。十数秒ほどのCMが終わって直ぐに、スマートフォンで「雨ニモマケズ」を検索し、気づけば全文を読んでいました。
とても驚きました。宮沢賢治が描いた人としての理想像は、自分が何年もかけて築いた理想の人そのものだったからです。
この瞬間、会った事もない、生きている時代も違う宮沢賢治に親近感が急に生まれ、心の友を得たような感覚になりました。また、この何年かの日々が日本文学史を代表する作家によって肯定されたような気持ちにもなりました。
 私は、ここに読書や歴史の面白さがあるのだと思います。人としての成長には、自己理解が必須であると聞いたことがあります。自己理解を深める為には、自分を俯瞰的に見たり、自分に問いかけたりすることが必要ですが、これが結構孤独な作業だったりします。相談する相手もいないし、そもそも誰かに話すことでもない。ただ、そんな時に自分と同じ考えを持った人に出会えたら、少しホッとするような、落ち着いた気持ちになります。およそ500万年前から続く人類史の中で、様々な考えを持った偉人と言われる人たちが多くいます。その気になって探してみれば、共鳴できる考えを持つ友人、または尊敬できる師匠にきっと出会えるはずです。

 

園長 後藤大周

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