私の好きな映画の一つに、オードリー・ヘップバーン主演の「マイフェアレディ」があります。オードリー演じる花売りの少女イライザが、言葉遣いや立ち居振る舞いを学びながら、少しずつ社交界の女性へと変わっていく成り上がりの物語です。60年前の作品ですが、オードリー・ヘップバーンの上品で可憐な演技には、令和の今見ても思わず引き込まれてしまいます。また、主人公がただ綺麗になっていくというだけではなく、「どう扱われるか」「どう見られるか」が、人をここまで変えるのかと、どこか人間の本質を描いているような奥深さがある作品です。
この映画で描かれている“人の変化”。実は現実の世界でも起こると言われています。「ピグマリオン効果」という言葉を皆さんご存知でしょうか。これは、「相手から期待されることで、その期待に沿うように成長していく」という心理効果のことです。例えば、「あなたならできると思うよ」「頑張っているね」と認められることで、子どもは自信を持ち、本来の力を発揮しやすくなります。反対に、「まだ子どもだから分からない」「あなたには難しい」と言われ続けると、自分の可能性を信じにくくなってしまうことがあります。
子育ての中で、「どう褒めればいいのか」「どう叱ればいいのか」と悩む保護者さんは多いですが、褒める・叱るの前に、子どもにも考えや感情が“ちゃんとあるもの”として受け止め、尊重することが大切です。例えそのつもりがなくても、可愛さ余って“未熟な存在”として無意識に接してしまうことはよくあります。子どもは大人が思う以上に、自分が信頼されているか、一人の人間として見られているかを敏感に感じ取っています。いつまでも赤ちゃん扱いされていては、「信頼されている」とは感じにくいものです。当然、面倒な存在として扱われている雰囲気を感じ取れば、一人の人間として見られていると感じる訳もありません。
間違ってほしくないのは、ここで言う“尊重”とは、子どもを大人扱いするという意味ではありません。子どもの主張やワガママを全て通すことでも全くありません。年齢に応じた配慮やサポートをしながら、「一緒に考えてみよう」と対話する姿勢が大切なのです。
映画の終盤、イライザはこんなセリフを言います。「レディと花売りの違いは、どう振る舞うかでなく、どう扱われるかにあるんです。」イライザは、正しい言葉遣いやマナーを覚えただけで変わったわけではありません。周囲が「一人のレディ」として接し始めたことで、自分自身の振る舞いも変わっていったのです。
人は他者のまなざしによって変わるもの、きっと、周りから尊重されることで、初めて自分を尊重できるようになるんでしょうね。「何をどう教えるか」以前に、「どう扱うか」が子どもの人格を作っていくという事を、私たち大人は忘れないでいたいですね。
園長 後藤大周





